七五三の「碁盤の儀」とは?
「七五三」は11月15日に親子で神社に参り、報告・感謝・祈願を行うものです。
※当日は混雑するので前後一週間に七五三詣でをするご家族もいらっしゃいますね。
3歳が男女の「髪置の儀」5歳が男子の「袴着の儀」7歳が女子の「帯解の儀」と言います。
5歳になってカッコ良く袴を着て行う「袴着の儀」の時に同じく行うのが、「碁盤の儀」というもう一つの儀式です。ご存知でしたか?
この儀式を行うことによって、
「筋目良く生きていく」「社会で出世する」「度胸がつく」「足腰が丈夫になる」「しっかり踏ん張ってと生きていく」
などなど、男の子の成長へのこう言った願いが成就すると言います。
さて、どんな手順でどんな事を行うかというと…
① 男の子が碁盤の上にしっかりと立つ。
② 神社に一礼する。
③ 掛け声とともに元気よく飛び降りる。
とっても元気がいいですね!!
インスタなどのSNS普及につれて、「碁盤の儀」を催す神社が増えてきていると言います。
インターネットの写真を色々見てみると、どうも男の子だけではなく、女の子も勢いよくジャンプしているものもありますね。
「袴着の儀」は一応5歳の男の子なんですけど、、、でもみんな楽しそうです。
さて、将来への我が子の様々な願いがあったとして、なぜ、わざわざ「碁盤」の「上に乗って、そこから飛び降りる」という儀式になったのでしょうか?
「碁盤」が表すものと、男の子の成長への願い
七五三の碁盤の儀に「何故碁盤を使うのか」を考えるためには、碁盤の由来を見ていくとその理由がだんだんとわかってきます。
【1】暦・占い・祭事の神具としての碁盤
碁盤は一般的にチェスや将棋と並んで、歴史の古いボードゲームとして名を連ねていますが、囲碁はちょっと起源の性質が違います。「暦」や「天体観測」「占星術」など祭事に使う祭器だったと言われていて、「世界」や「宇宙」を表すものでした。
紀元前2000以上昔の古代中国で生まれたという囲碁。その碁盤の作りを見てみましょう。
碁盤には線が縦と横に交差しています。全部で縦と横に19本あります。これは「路(ろ)」と言って道を表しています。対局で碁石を置くのはこの縦と横が交差した交点なのです。
この交点の数は、「縦19×横19=361」で、昔の一年の日数を表します。
交点の中でも太く●印が付いているところは「星」と名付けられています。特に真ん中には「天元」という特別な名前が付けられています。
また、四つの隅は四季を表しています。三ヶ月が約90日、「春夏秋冬」で360日です。そこに、昔から宇宙の中心と言われた北極星=天元を足して361、ぴったりですね。
まさかの暦や占いで使われていた碁盤。世界や宇宙をデザインしたものが、古代中国の昔から今まで続いていると考えると、なかなかロマンチックですね!!
【2】大都市の構造を担うデザイン
囲碁に使う碁盤のデザインは、実は、中国の「長安」、そして日本の「平城京(奈良)」「京都」の街のかたちの基となっています。
古代より、中国では「天円地方(てんえんちほう)」という思想があります。
「天の動きは円(えん=まる)で、地の動きは方(ほう=しかく)で広がっていく」という、世界の作りを考えた思想です。
この、「天円地方」の考え方基づいて、大都市は作られていきました。
また、碁盤の一辺は方角を表しています。碁盤の四辺は東西南北を表しているのです。
東西南北にはそれぞれ、「東の青龍(川)」「西の白虎(道)」「南の朱雀(湖)」「北の玄武(山)」という神獣がおり、これを司どる地形が理想であるとする四神相応(しじんそうおう)という考え方もあって都市づくりの1要素になっています。
京都や平安京はこの考え方に準じているとされています。
まさに四角い碁盤=地の広がり=世界。この中で、まるい碁石=円の天の陰陽(黒と白)によって繰り広げられる、世界を分かつ戦いが囲碁の対局と言えましょう。
【3】武士の時代、子の成長を願う「天下取り」
碁盤は世界全体を表すものだということがわかってきましたね。
七五三は、徳川第五代目将軍徳川家綱の長男、徳川徳松を祝うために始まったと言われています。その後、武家の間で広まり、関東から全国へと広まっていった七五三。
「天下取り」という極まった出世を目指す願いが込められていたのです。
■ 碁盤という世界や宇宙を表すものの上に立つ → 将来、天下を取れるくらいの出世をする。
■ 碁盤に縦横にまっすぐな「路」が通っている → しっかりと、筋目良く成長する。
■ 碁盤から、勢いよく飛び降りて立って見せる → 足腰しっかりと健康に成長する。
目指せ!!天下取り!!だったのですね。
元は皇室の「深曽木の儀式」!?
「ふかそぎ」と読みます。皇室では平安時代より5歳の時に「袴着の儀」に続いて、「深曽木の儀」が執り行われていました。
「深曽木の儀式」が元となって一般の神社で「碁盤の儀」が行われるようになったと言われています。
思えば囲碁が伝来したのが平安時代、そして貴族の間で囲碁が大ブームになったことを考えると、ちょっと関連がありそうな気がします。
ただし、使うのは「碁盤」ではなく、それよりやや大きい「日置盤(ひおきばん)」です。
「日置盤」はほぼ碁盤と同じ形状をしていますが、19×19路の碁盤に対して、21×21路あり、少し大きいです。碁盤よりも大きなこの「日置盤」は、この世界よりもさらに高い場所にある、「高天原(たかまがはら)」つまり天の国を表しているとされています。
儀式の手順も、もう少し複雑になっているようです。見てみましょう。
①袴を着て、左手に扇、右手に小さな松と橘(たちばな)を持つ。
②日置盤に立つ。
③髪に櫛(くし)を入れ、和鋏(ハサミ)で毛を揃える。
④盤上の二つの青い石を踏みしめる。
⑤「えいっ」と掛け声を上げて飛び降りる。
古代の皇室の祖先が、高天原(天上)より地上に降臨したことを示しているそうです。もちろん、成長を願う意味合いもありますので、この儀式を行う事による子供への願いが、七五三の「碁盤の儀」にも同様に伝わっていったのは間違いありません。
いかがでしたでしょうか。思わぬ囲碁と七五三の関係、囲碁に使われている碁盤の起源の秘密が隠されていましたね。
日本に引き継がれているものはとても歴史が深く、海外の方にとっても興味深いことだと思います。もしも、七五三の時があって「碁盤の儀」を見かけたら、お知り合いに教えて上げてください。
ちょっとした話のタネになって、そしてちょっと囲碁にも興味を持っていただければ幸甚です。
読んでいただいてありがとうございました!!